引き換え

カップの中で笑う
可愛いラテアートにほっこり
どの人が描いたんだろう
センスがいいな

出来映えの堪能が
二人の距離を
また少し縮めてくれたけど
間もなく飲みごろ

つまりは
ひと口ごとにイラストが
静かに消えていくってことで

ふぅ〜

楽しみを得るために
逆に何かを失うのって
なんだか切ないね……

「もう一杯頼めば?」

「……またね!」

脛 枕

怖い夢を見た……

人里離れた山の中で
深い穴に転落

ロッククライミングの要領で
脱出を試みたいところだが
足の骨が折れたのか
ジンジン痛みが増していき
動かすことさえできない

皮膚が腐る前に
喉が渇れる前に
何とかしなければ……
誰か助けてくれ!

そして
額を拭いながら目を覚ますと
元凶たる痛みの原因は
しびれから来たものと分かった

やんちゃ度MAXの息子が
俺の足元まで移動して
かつ
このスネを枕にしていたことによる……

つゆ知らず

何だか寂しそうな君に
ありふれたギャグを一発

すると意外にも
ソッコーで笑ってくれたから
続けざまに!

と思ったけれど
これ以上は逆効果かな……
そう感じて
とっさに言葉を呑み込んだ

その後は
軽い会話を二言三言
やがてチャイムが響く校舎に
君は足早に消えて行く

でも良かったな
いっ時だけど
元気になってくれて

実のところ
露と消えたかった自分だけど
おかげで少し持ち直したよ
あのコの存在は特別だから

もちろん彼女は
何も知らないだろうが

キセキ

定規が引っ掛かっていたせいで
ずっと放置されたままだった
一番下の引き出し

静かに開けてみると
甘い空気を漂わせながら
あのキャラメルのオマケや
あのチョコのシール

それから
あの戦隊ヒーローや
あの人気アニメのグッズが
ゆっくりと目を覚ましてくれた

懐かしいな……

大型ゴミで出ていく前に
急に存在を思い出したのは
ほんと奇跡に等しいよ

「取っておくの?」
「もちろんさ」

生まれたことを恨みつつ
たいした思い出も無いままに
何とか生き抜いてきた
あの頃のささやかな軌跡だから

エール

あーあ
やっちゃったな
思ってた悪い結果が
現実のものとなってしまった

でも大丈夫さ
こんな失敗なんて
珍しいことじゃないから

逃げ出してしまう?
いや踏ん張るか
たいしたもんだ

放り出したところで
命が取られるわけでもないのに
また這い上がるとはね

それじゃ次もう一回やって
結果が出せなかったら
そこであきらめると

それでいいだろう
今まで十分
戦ってきたんだからな

誰も知らない所で
自分なりに……

どこかで誰かと

知らない町を
フラッと歩いてみたい

ガイドブックに載ってない
ディープな場所や
文字からは読み取れない
趣ある風を探しながら

漠然と生きてきたことを
反省するような
適当に生きてきたことに
慢心するような

そんな当てなき
果てもなき旅……

知らない町を
ブラッと歩いてみたい

昔どこかで
誰かと聞いた歌を
ひとり口ずさみながら

ブヒッ!

なぁ、お前
ミスターピッグなんてイジられてるけど
ブタの先祖はイノシシって知ってる?
人口が増えて食い物が無いから
一部が家畜化されてブタになったそうだ

だからブタは野生に戻ると
やがてイノシシになるんだってさ
これには驚きだな

「そんなことどうだっていいよ
ブヒ、ブヒッ!」

どうでもいいって言いながら
ノッてくれる
そういうところが好きだなぁ〜

「何ワケ分からないこと言ってんだ
オマエだけだぞ
まだ今月分を払ってないのは」

あぁ、部費か
はいはい……